本誌でコラムを執筆いただいているTMI総合法律事務所の甲斐史朗弁護士と、国際通商法が専門のTMI総合法律事務所の戸田謙太郎弁護士、奥村文彦弁護士に、ミャンマー政変後のビジネスの留意点について解説してもらいました。 ミャンマー政変後のビジネスの留意点 ~アメリカ経済制裁とは何か~ 2月1日未明にミャンマーで軍がアウン・サン・スー・チー国家顧問及び複数のNLDの国会議員、党幹部らを拘束し、政権を掌握しました。これを受けて、アメリカのバイデン大統領は、同月10日、ビルマ(ミャンマー)の状況に関する資産凍結のための大統領令(Executive Order, Blocking Property With Respect to the Situation in Burma。以下「本大統領令」といいます。)に署名し、翌11日、The Office of Foreign Assets Control(OFAC・財務省外国資産管理室)は、本大統領令に基づき、ミャンマー軍関係者等に対する経済制裁を発動しました。 ミャンマーでの長期的なビジネスを考える上では、同月11日に発動された経済制裁によって、日本企業がどのような影響を受けるのでしょうか。この「経済制裁」とは、いったいどのようなもので、ミャンマーでビジネスを行う日本企業は、どのような点に気を付ければよいのか、以下検討します。 アメリカの経済制裁とは OFACは、特定対象国やテロリスト等によって米国の安全保障や外交政策等に脅威となる活動に関与した者に対する経済制裁や取引規制を行っています。 2016年10月以前のミャンマーへの経済制裁は、ビルマ制裁規則(BSR)を根拠としていました。具体的な制裁措置は、それぞれの根拠法令に基づき、大統領令(Executive Order)により定められており、大統領の裁量が強いといえます。本大統領令に加え、今後、ミャンマーにさらなる経済制裁を行うか否か、行う場合にどのような内容とするかは、バイデン大統領が決することになります。 包括的制裁プログラムと限定的制裁プログラム ① 例えば、イランやキューバについては、概ね以下のような包括的制裁プログラムが課さ れていました。 ✓ 資産凍結(対象国政府・対象国国民) ✓ 輸出入の原則禁止 ✓ 対象国原産の商品・サービスの取引の原則禁止 ✓ 対象国国内、対象国政府及び対象国国民との金融取引は原則禁止 ✓ 10%以上の米国原材料を含む製品の対象国への輸出の禁止 ミャンマーについては、2016年10月の制裁解除以前においても、このような包括的制裁プログラムは、課されていませんでした。 ② 限定的制裁プログラム ミャンマーにおいては、2016年10月以前においては、US personが以下の行為を行うことができないという制裁が課されていました。 ✓ ミャンマーへの新規投資の禁止 ✓ ミャンマーへの金融サービス輸出の禁止 ✓ ミャンマー原産の産品の米国への輸入禁止 ✓「特定の者」との取引禁止、「特定の者」の資産凍結 上記の制裁措置は、ミャンマーでの民主化に伴って緩和され、2016年10月7日に原則的に解除されました。 誰の行為を禁止しているか(US Person) 上記の行為が禁止されるUS Personとは、以下の者を意味します。 […]