逆境を乗り越え、事業を継続する日系企業
稼働し続けるミャンマー縫製業

逆境を乗り越え、事業を継続する日系企業 稼働し続けるミャンマー縫製業

ミャンマーのCMP(裁断・縫製・荷造りする受託加工)方式の衣料品は、総輸出額の30%を占める主力品目。国営英字紙Global New Light of Myanmarによれば、一時閉鎖に追い込まれていた600以上の縫製工場のうち、約500工場が稼働し、欧州向けの衣料品輸出も緩やかに回復しているという。日系企業に目を向けると、そのほとんどがほぼ100%で稼働し、政変、コロナ禍でも問題なく事業活動を継続。今回は、ミャンマーで躍動する日系の縫製関連企業をクローズアップした。


日本縫製協会会長
Suitstar Garment社長

河江 忠樹[Kawae Tadaki]
現在稼働率はほぼ100%。今後も雇用を継続していく
日系縫製業としての矜持

政情不安、コロナ禍もほぼ平時で稼働を続けている縫製業界。
雇用の実情や金融、物流問題など幅広い観点から日本縫製協会の河江会長に話を聞いた。


物流事情は大幅に改善
金融問題が最大の懸念

──現在の日系縫製業の動向を教えてください
 日本、欧州市場に限らずコロナ禍であり、特に日本市場は緊急事態宣言下、衣服・ファッション業界は極めて厳しい状況です。加えて、ミャンマー生産は秋冬対応を主とする企業が多く、今後の春夏受注は推して知るべく状況。また、駐在員にも感染の危険性が高まり、大使館御指導の下、一時帰国し残留する邦人の数は激減しました。日本でワクチン接種後にミャンマーに戻ってくるという流れですね。

──稼働状況については
 コロナの影響で政府の通達により、7月末に2週間閉業し、秋冬の生産が2週間遅れたため、各社ほぼ100%で稼働しています。弊社においては欠勤率は2~3%。とはいえ、コロナ禍の規制で残業制限があるため、平時の生産には至っていません。

──日系の縫製業は自社向け生産が多いのか、請負業務(OEM)が多いのでしょうか
 圧倒的にOEMですね。また、発注する側の企業は7~8割が日系だと思います。

──コロナ禍における物流問題については
 資材調達の問題は、2~4月の状況と比較するとだいぶ改善されました。今はほぼ大きな問題はなく物流も動いており、資材を送る側もある程度の予見をもって機能していると思われます。前は船も港湾の作業員も動かなかったのですが、今ではコンテナの予約はできますし、航空便も問題はないです。ただ、航空便は便数が少ないので、運賃はかなり高くなりました。

──金融問題については
 金融リスク(ドル、チャット含む)の対応が最大の懸念。中央銀行の政策にも一抹の不安があり、為替の市場性は危惧しなければなりません。国内をとりまく金融政策は今後大きな注目をしていくべき重要なポイントです。現状、給与の支払いなどは各社でさまざまなコネクションを使って引き出しているのが実態だと思います。

──御社の給与払いは現金でしょうか
 現金で渡しています。工場がヤンゴンから離れたバゴー(車で1時間程度)にあるため、当然ヤンゴンよりも田舎であり、オンラインキャッシュの対応にも不慣れです。

──市民不服従運動(CDM)の影響は
 4~5月は「田舎に帰りたい」というスタッフがいましたが、それ以降はコロナが発生し、退職希望者も減り、現在「働きたくない」というスタッフはほぼ皆無です。弊社スタッフは約1200人で、意欲的に仕事をしてくれています。

──第一波のときは政府の通達も厳しかった印象です
 ヤンゴンでは聞いていませんが、バゴーでは今回も政府側の検査が入りました。手洗いの徹底やソーシャルディスタンスなど第一波と同じ対策をしたところ、検査員から「素晴らしい」と褒められましたね。

▲多くの工場で生産されているのが重衣料と呼ばれる秋冬
物。この国の気候から考えると一見違和感を感じる

▲日系の縫製工場はミンガラドン、ラインタヤ、シュエピタ(以上工業団地)、ティラワ経済特区に分布している

欧州企業とも考えは同じ
雇用と産業を守り続ける

──コロナの影響で受注量は落ちましたか
 ASEAN中がコロナ禍であり、ミャンマーはコロナ禍でも稼働できているという事情から受注は比較的多い方かもしれません。

──新たに出てきたトピックはありますか
 欧州商工会議所のメンバーと協議し、ミャンマーの縫製業についてオンライン会議をしました。欧州企業はアパレル大手H&Mからミャンマーのボイコットが始まった経緯があり、今後はどうするのか?と聞いたところ、撤退することで多くの雇用や技術が失われるのは決してよくないとの返答。労働者の生活を守ることが重要だと考えており、その点は我々と一致し、雇用と産業を守りましょうと共有したわけです。

──ASEANにおけるミャンマーのライバルになりうる国はどこでしょうか
 現状では、カンボジア、ラオス、バングラデシュ辺りでしょうか。バングラデシュの生活水準はミャンマーとも変わらないと思います。とはいえ、直ちにバングラデシュに工場を移すといった話は聞きません。ミャンマーの縫製業に関わる人間は、一生懸命働くミャンマー人が好きですし、概して真面目という認識を持っていると思われます。

──韓国や中国の縫製企業はライバルですか
 もちろん協業するケースはありますが、企業体として特色が違うという印象です。日本の縫製業は駐在員が多く、3~5年で交代するのが一般的。しかし、特に韓国企業はオーナー自らがミャンマーに来て投資をしているケースが多く、「ミャンマーで一生暮らす」と決意されている方が多いです。

──引き続き日系企業が当地で縫製事業を行うメリットはありますか
 大いにあると思います。政情不安だけがネックですが、今後も競争力を維持できると思いますし、ポテンシャルは高いと考えています。前にASEANの他国と法律制度や賃金などを総合的に比較したことがあるのですが、今後5年、10年は維持できるはず。他国が中国のように賃金が上がる傾向もあり、一方ミャンマーは残念ながら後退りした分、再度追いつくよう頑張る立ち位置となってくるのではないでしょうか。

──日系企業の進出はどう考えていますか
 当面は投資は冷え込むとみるのが一般的と思いますが、既に進出されている企業さんは継続を表明しているところがほとんどです。先々のことを語るにはもう少し時間がかかりますし、前述したように高いポテンシャルはあるなか、我々は細心の注意を払いつつ、現地雇用を継続して守り、日系の縫製業界としてこの地に留まり発展を目指すことに変わりはありません。

日本縫製協会 ※2020年9月1日発足

会長:河江忠樹(Suitstar Garment社長)
副会長:高岡康博(Famoso社長)
会計:陰山嘉宏(阪急阪神エクスプレス社長)
広報:清水達夫(Juki Myanmar所長)
構成企業:約30社
工員総数:約3万5,000人

【上部団体】
MGMA Myanmar Garment Manufacturing Association(UMFCCIの下部組織)

※他国の協会の実情/中国縫製協会は約300社、韓国縫製協会は約100社が会員。香港縫製協会は数社。いずれも日本縫製協会より早く発足している